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| 81年にこのアルバムが出た時、up to dateで聴いていたんだ。僕が28歳くらいの時のこと。すごくセンセーショナルで、最初の「トーン」という音が出てから、最後まで約52、3分、一気にひきこまれて聴いてしまったんだ。クラシックでここまで掴まれたのは初めてだったよ。当時、僕は一所懸命ジャズを勉強してて、ジャズの中に求めていったものが、ゴールドベルクの中にある、って感じたんだよね。でも、その時はどうしてそう感じたのか分からなかった。 僕は、特に18歳から20歳の頃に音楽をすごく勉強したんだけど、48歳になった時に、一生の間にもう一度同じような経験をしたいって思ったんだ。何か目標があった方がいいから、50歳になったら東京文化会館でリサイタルをやろうと決めた。その瞬間に、よしゴールドベルクをやろうってパッと閃いたんだ。この時はまだ弾けていなかったんだけど、だんだん弾けるようになっていくうちに、何でゴールドベルクをやろうと閃いたのか、28歳の時あれほど引き込まれたのは何故だったのか、っていうのが分かってきたんだ。 それは、僕が変奏形式がもともと好きだってこと。もしくはロンド形式つまり繰り返し繰り返しっていうのが好きで、ジャズを好きになる下地もクラシックを習っていた小学校くらいの時の好みの中に、あったんだよ。 チック・コリアと話した時に、「人のスタイルじゃない自分のスタイルをどうやって確立して演奏するんだ?」って聞いたら、「そんなことは考えている余裕はなくてその瞬間に一番いいと思う音を探している、聞こえた音を弾く、聞こえていない音は弾かない。これ、結構難しいことなんだよ。自分が聞こえてもいないのになんか埋めちゃうと、音に命が宿らない。聞こえない時は弾かない勇気を持つ事と聞こえた音だけを弾く。そうすることで、振りかえれば『It's your style!』。」って。カッコイイよね(笑)。 つまり、「直感は間違わない、判断が間違うんだ」、これは五味康祐の麻雀の教えなんですけど(笑)。聞こえた音を即座に弾く、直感を辿るってことは、スピードが要求されるよね。クラシックの譜面を読んでいる時も、譜面にバーをあてて時間を辿るでしょ。その時にあたった音符を弾いていくと同時に次の音符を見ている。 というように、音を弾いてそれを味わう、次の音を聞いているっていう意味では、譜面があろうがなかろうが、同じなんだよ。悟りの境地としては。だから譜面のないものは、聞こえた音を弾くし、譜面のあるものは、その次の音が聞こえるまで練習する。 例えば、「エリーゼのために」は「ミレミレミ シレド」の次の音って「ラ」以外弾きたくないじゃない。それは曲を良く知っているし、血肉になっているからなんだ。だからできの良いクラシックを聴くとアドリブのように音がみずみずしい。 グールドの演奏には、言わばクラシックの究極がある。ということは、ジャズの究極も含まれているんだよ。50になる今なら、こうやって自分でも人にも説明できるんだけど、28歳の時は漠然とそういうことを感じていたんだね。 今回自分で弾くにあたっては、やっぱりクラシックだから、まずはバッハのことをたくさん調べたりして、それからグールドの本を買ったり、ゴールドベルクと名のつくCDなら、目に付く物は手に入れたよ。もう20数枚になったかな。でも、何度聴いてもやっぱりグールドの81年なんだな。もう自分の中に染みついちゃっている。例えば、装飾音なんてバッハの時代ってほとんど確立されていないから、CD何十枚聴いてもみんなそれぞれ違う。だから自分の解釈でやればいいんだ、って思うんだけど、やっぱりグールドの装飾法になっちゃうんだよ。そのことで悩みもあるんだけど、2年も練習していくうちに自分がこう弾きたいと思っているんだから、同じ装飾法で弾いたとしても、自分の音になっていると思うんだ。 今は、グールドの若い時に録音したのと、81年のとがセットになって廉価版で出ている。グールドのだけで4、5枚持っていてさ。もちろん同じものもあるんだけど、旅先で聴きたくなっちゃって持ってこなかった…っていうと、2000円くらいなら安いもんだからね。それで、1時間幸せになれるんだから。一生の間でそういうアルバムを作りたい。今、使い捨てみたいな音楽はやっていないっていう自信はあるけれど、1回聴いて離れられなくて、20年たっても忘れられなくて、自分でやってみようと思って2年間努力するような作品って素晴らしいよね。そこまで行って音楽は人類の財産だって思えるな。
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