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叫ぶことができなかった。だから、このアルバムを聴いていた。 何もかもが間違っている気がしていた三、四年前。突然、もしかしたら全ては嘘なんじゃないか、と思うようになった。疑いはじめるともうキリがなくて、ずっと信じてきた自分の姿や両親のこと、友達の笑顔、新聞にでかでかと掲げられる殺人事件、約束を告げる電話の声、あああなんて軽々しくて不確かなんだろう。自分の感情の振れについてゆけず──いや、その感情すら作り物ではないのかと疑うほどに、わたしはもう全てが嫌になっていた。 そんなとき、ネットを通じて知り合った友人のHPに、このアルバムが紹介されていた。そのときは興味を持っただけで終ったのだが、後日CDレンタル店に行くと、このアルバムが置いてあった。女の人が水鏡をしゃがみ込んで覗いている、モノクロ写真のジャケット。そういえば勧めていたっけ、と思い出して借りた。 「このブランコどこまで高くこげばいい? もう別に落ちたって構わないよね」 ぶわん、と振り回されるような音楽だった。別に光っても尖ってもいない、ただものすごく重いドライアイスのようなものが頭の中にねじ込んでくる。つめたいけれど、火傷をする。それは山本美絵というひとの、あるときは淡々と、あるときは感情をむき出しにして歌うその独特のスタイル故だ。彼女の歌はとても演劇的で、そしてある意味とてもエロティックだと思う。 「あのブランコこぐのをやめてしまった日に あたしたちは死んでしまったよ」 今のわたしは、あの頃と比べて疑うことが少なくなった。何かをいとしく思うことを忘れないでいたいと思えるし、世界は常に嘘をついているわけじゃないと理解できた。それでも時々十五歳のわたしが現われて牙を剥く。それは忘れてはいけない、消してはいけない存在なのだろう。 今はリハビリのように、ヘッドホンを耳に押し当てて、山本美絵の息づかいを聴いている。 活動休止が、とても惜しい。
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