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| 無知なるがゆえに手にした偉大な一枚 とにかく洋楽だとかロックだとかエレキギターだとか、子供のころに衝撃とともに突然目覚めた欲求はあらゆる未知なるところに目をむけ吸収を試みようと努力するわけだが、いかんせん今のように所構わず情報が手ぐすね引いて待ち構えている状況も無く、数少ない情報源を逃さぬよう絶やさぬよう必死に求めていた。 オヤジになった今では考えられないほどの集中力と行動力、そして何よりも吸収力。洋楽やロックの専門誌といえば私の時代には「MUSIC LIFE」「音楽専科」の二誌と、楽器屋で見かける「Player」くらいのものだったであろう。 そして何といってもラジオだ。そして動く姿が見たくとも当時のテレビから得られるものは殆ど無かった。雑誌とラジオが頼りであったが、初めて「MUSIC LIFE」誌を買ったときなど写真を眺めているだけで、書かれている名前や言葉が全く何がナンダカ理解できず、いつになったらコノ雑誌を楽しめるときが来るのだろうと気が焦ったりもして。 また、当時のラジオは曲のイントロに紹介のナレーションがカブってきたり、曲が途中でフェイドアウトしてしまうことの方が多く「ああ〜これからギターソロなんじゃないのか〜」と初心者ロック魂は涙の不完全燃焼を起こし、とてもじゃないが音楽に酔える状況ではなく、何としてもLPレコードを手に入れることを夢描くのであった。 そうだ、夢描くほどLPレコードは高価なものであり、子供にとっては誕生日と正月にしか買うことが許されない貴重な代物だった。それゆえ宝を手に入れるときは慎重に吟味し、レコード屋の棚の端から端まで、レコードを親指で持ち上げては人差し指で前に倒す連続した動作を繰り返し棚を往復するのであった。 自分が買うからにはビートルズやカーペンターズであってはいけない、もっとロックでなくては、そして友達にも理解不能な玄人筋でいかなくてはと、まだまだロックを共有できる友達もいないくせに自分勝手な背伸びに酔いしれながら、渾身の力で握り締めた2500円で手に入れたのは「PINK FLOYD / DARK SIDE OF THE MOON」であった。それは完全なジャケ買いだ。知識が無いので何を買ったら良いのか判らないため、慎重に吟味しようと考えながらも結局はジャケ買いなのである。帯には邦題が「狂気」と書かれ、いかにも尋常でない雰囲気が少年の鼻をくすぐり「シンセサイザーがうねり」のコピーに完全に参ってしまった。とは言えバンド名どころかシンセサイザーがどんな物かも知らないのである。無知であることは時に素晴らしい結果を生む。 早速家に帰りLPがはみ出てしまうレコードプレイヤーに乗せてみる(ステレオ装置なんて中学入学までわが家には無かった)。何やら想像と大きく違う音楽が流れてくる、いや想像通りの音だったのかも知れない。毎日聴いた。他には西城秀樹とフィンガー5しか持っていないため、半ば自分を納得させるためにも聴くしかなかった。後に思い出せば素晴らしい選択だったと思いつつ、誰もが知らない特別な音楽に背伸びしたつもりが、皮肉にもギネスブック認定の世界一売れたモンスターアルバムを手に取っていたわけである。
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